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黒いトランク 鮎川哲也


黒いトランク (創元推理文庫)

黒いトランク (創元推理文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2002/01/25
  • メディア: 文庫



昔、職場の上司に勧められて読んだ「黒いトランク」。
とにかく、トリックの緻密さに圧倒されて、ずっと私のミステリー小説ランキングの上位を占めていた。

にも関わらず、物語の細部はすっかり忘れてしまっていて、「すごいミステリー」だという印象だけが残っていたのだけれど、ようやく読み返してみた。

物語の時代は1949年。70年前の話だ。

東京の汐留で、トランクに詰め込まれて九州から送られてきた腐乱死体が発見される。犯人とおぼしきCはすぐに自殺体となって発見される。

容疑者のAとZの2名にはアリバイがあり、特にAのアリバイは鉄壁である。

また、東京ー博多間で二つのトランクが交錯し、中に詰められた死体が入れ替わるが、実際に死体を詰め替える時間はわずかであり、どうやって入れ替えたか説明がつかない。

鬼貫刑事は、根気強く聞き込みを重ね、犯人を追い詰めていく・・・

今、改めて読んでいくと、殺す側、殺される側それぞれの事情は書き込まれているにせよ、肝はそこではなく、ひたすらトリックを楽しむ、謎解きの醍醐味を味わう小説という感じだ。犯人のキャラクターが別人でも、淡い昔の恋が絡まなくても、極論すれば、鬼貫刑事が若いイケメンの物理学者(ガリレオみたいな)でも、とにかく、このトリックがあれば、他はどうでもよろしいと感じてしまうのだ。

そして、展開に「えぇ〜...それはないでしょ」と白けさせるところが一つもなく、数学の方程式を解くように整然と謎が解けていく。

「人間ドラマ」が丁寧に描かれるミステリーが好きという私の友人だったら、「物足りない」というのかもしれないけれど、こういうの、好きな人にはたまらないはずだ。本格ミステリー。

***

20代の頃、この鮎川哲也の名作を勧めてくれた上司は「おじさん」だったと記憶している。しかし、色々思い返してみれば、彼はまだ30代後半、アラフォーだったはずだ。若白髪と痩せた体型のせいか、妙に老けて見えたのは、私が若かったからなのかな。

今なら、アラフォーなんて若者よね。






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「すいれん」で、遅〜いランチ 国立西洋美術館 [美術館]

今、上野の国立西洋美術館でやっているのが、この二つの企画展。

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左の「松方コレクション展」の方は、いつもは常設で展示されている松方幸次郎によるコレクションに、今は売却されなどして散逸している作品を加えて、企画展として開催しているもの。

右の「モダン・ウーマン」展は、フィンランドの女性画家の作品展。(主に十九世紀のもの)これは常設のスペースで開催されていた。

つまり、松方コレクションを企画展のスペースに移して、そのあとの常設のスペースにフィンランドの女性画家の作品を展示した、ということ。

チケットを買う時、常設だけにしようかと迷ったけれど、松方コレクションなしの常設じゃなぁ、ということで、企画展を買って、常設もみることにした。

結果、まあ満足。「松方コレクション展」はなかなか見ごたえがあって、松方の業績や、そのコレクションが関東大震災や第2次世界大戦を通して、どのように散逸し、どのように生き残ったかが、ドラマチックに解説されていた。

「モダン・ウーマン」は、十九世紀半ば、フィンランド政府が美術学校を作るときに男女平等に入学の機会を与えたことから、優秀な女性画家が多く輩出したという、その成果が見える。

しかし、お昼ご飯を食べないで出かけ、企画展と常設展をハシゴで見たら、最後は疲れてへばってしまった。近頃、体力の衰えを感じる...

で、午後4時過ぎ、オアシスに駆け込む砂漠の旅人のように、西洋美術館のレストラン「すいれん」へ。

ローストチキンのサンドウィッチを食べて、やっと元気を回復した。「すいれん」で食事をするのは久しぶり。

一応、感謝を込めて、サンドウィッチです。背景はル・コルビジェの建物と中庭。

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梅雨時は気分もスッキリしないし、散歩も思うに任せないから、美術館でくつろぐのはとてもいい。見慣れた感のある松方コレクションだが、これを「見慣れた」などと言えるのは、とても贅沢なことなのかもしれない。
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木犀!/日本紀行 セース・ノーテボーム [本]


木犀!/日本紀行

木犀!/日本紀行

  • 作者: セース ノーテボーム
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2010/08/01
  • メディア: 単行本



オランダ人の書いたものが読みたいと思って、セース・ノーテボームを読みだした。

セース・ノーテボームは1933年生まれ(85歳)のオランダ人小説家で詩人、旅行作家、エッセイスト。毎年ノーベル文学賞の候補に名前があがるほど、ヨーロッパでは有名な作家だというが、日本語で出版されている本はわずかだし、代表作がどれなのかすら私にはわからない。

上の写真の本は、小説「木犀!ーある恋の話」と、紀行やエッセイをいくつかまとめた「日本紀行」が収録されている。冒頭数ページを読むだけで、ノーテボームがいわゆる「日本文化」に大変に詳しい人であり、その日本文化と現代(書かれたのは1980年)の日本の間にある落差のようなものを、的確に見つめている人であることがわかる。

例えば、主人公アーノルト・ぺシャーズの友人の会話。この友人はベルギー大使館に勤務している。

「君は他のみんなと同じように、間違った考えを持って日本に来たんだ。そういう人は散々見てきたよ。谷崎の本を読んだり、あるいは「将軍」でもいいけどさ、広重の展覧会を見るとか、禅について何かを聞いたことがあるだけで、もう知っているような気になるんだ。それは本当に大きな誤解だよ。」

「彼ら(日本に来る西洋人)が求めているのは、オランダで誰もがランズロットを暗唱できるとか、フランドルがメムリングとブリュッゲのオールドタウンとルースブローク研究からだけ成り立っているというようなことなんだ。そんな国は過去の時間のなかにだけ存在するのであって、現在の空間にはもうないんだけどね。」

この後、彼らは連れ立って皇居へ向かい、天皇誕生日の一般参賀に加わる。さらに、主人公アーノルトと日本人女性「木犀」との恋愛と別れへと話が展開していく。

オランダ人による日本文化論がとても面白い。同時に、外国の文化を理解しようとして、どうしても自分のものにならない焦燥感のようなものに共感する。

***

2010年に出版されたこの本、出版してすぐの頃に一度購入して、その時はあまり面白いと思わず、適当に読み飛ばして処分してしまった。

それが、オランダ人の書いたものを読みたくなって思い出し、図書館で借りてきた。

読んでいくうちに、さらに、これはいつも手元に置いておきたいと思うようになって、結局また買うことになりそう。

あの時、手放さなければよかったのに。





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